■エッセイ

2.デザイナーを目指す君へー2.(インダストリアルデザイン松坂研究室ブログ2からコピー)寸法とデザイン

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 「寸法とデザイン」:「美しいデザインとはプロポーションである」と1986年当時の厚木デザインチーム統括課長であったS崎さんが仰っていました。ご本人は、私生活では色々と苦労されていたようでしたが、この厚木デザインチームのマネージャーは私たち現場のデザイナーにとっては理想的な上司で、設計からのクレームに矢面に立ってくれたり、デザインに対して物凄く真摯で勉強家であり上司部下という色の薄いフラットな組織が出来上がっていました。当時の厚木チームは、厚木工場という広大な敷地に設計者に近いものづくりの環境と、厚木の恵まれた自然景観も相まって、また、大先輩のEさん以下同世代のデザイナー8人で構成されているソニーらしい自由闊達な実に楽しい職場でありました。結構封建的な組織から転職した当初の私が、何より驚いたのが、ここのクリエイティブな環境では、将来を嘱望されていたにしても当時20代後半の若手デザイナーだったH氏のコメントに対しても、マネジメント以下チームの皆が深く聞く耳を示していたことでした。そのようなことが当たり前の会社でした。毎週のようにデザイン審議で互いのデザインをシビアに検討しあうのは―SONYロゴに見合う良いデザインを創るため―そのような共通の認識のあるこのような環境でデザインが出来るとどのような新人デザイナーでも大きく成長する、と実感しました。・・・さて話は戻りますが、「プロポーション」とは大きさの比率のことであり製品で言うと縦・横・奥行・間のバランスなどのことです。通常デザインの初期の条件として設計のたたき台となる寸法というものがあります。設計者がデザインのどのような寸法を要求しても入れて見せるという気概があれば別ですが(私は後にパーソナルオーディオ担当になり、そのような不可能を可能に実現する変態チームと遭遇しますが)。設計のたたき台とは、その時に性能とコストなどで選定したデバイス、安全規格などを積み上げると出てくる寸法です。デザイナーも最終的に製品化するために、目度となるその情報が必要です。しかしながら、最終的な製品の外観に関する責任を持つデザイナーは設計の寸法(その寸法がデザインにとっても良いのなら良いでも良いのですが?)を尊重しつつも、独自の視点で「最も良い(美しい)という意味のある寸法」を検討し発見し設計に提案として投げかけねばなりません。19インチラックマウントのように規格化されている寸法は規格化という意味があるのでしたら、それはそれで寸法に関しては意図があるということになります。例えば、家具であれば、最も美しく見えるバランスの板の厚み、ブラウン管の時代のコンピュータデイスプレイモニターでは最も美しく見える枠の幅、奥行などデザインの「絶妙」なバランスという「寸法」があります。設計の都合で例え実寸では変わらない場合であっても、良いデザインの寸法を意図として伝える努力をデザインします。また、設計から与えられた寸法をデザイン側も検討しなければデザインの責任を果たしているとは言えなくなります。なぜなら、デザイナーと一緒に仕事をしたことのある多くの設計者も自らの担当する商品のデザインが良くなることを拒む者は大抵いません。多くがデザインからの提案に近づけようと努力してくれるものです。結果は変わらないことになっても、椅子やテーブルの高さを決定する時に、従来の規格に従うだけでなく、今一度本当に良いのかどうか疑ってかかってみることも「寸法」を決めることもデザイナーの重要な仕事です。