■エッセイ

2.デザイナーを目指す君へ1.(インダストリアルデザイン松坂研究室ブログ2からコピー)「環境がデザインする」

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 

 「環境がデザインする」: 物のデザインをしてはいけません。環境が、あるべきかたちを作るのです。はじめから「もの」ありきでデザインしてはいけません。利用者・目的・環境が必要とする機能を満たすためにデザインを行うのであり、そのニーズと技術が機能の実現の答えとしてモノを必要とするかどうかで、決めるのです。

 はじめには、理想の姿、本質を描くということです。環境とは自らの観察・調査によって明らかになる「もの」です。デザインは「原寸」で行われなければなりませんが、環境や調査は他社が作成した資料や、インターネットからの情報は参考程度の物であり、デザインを行うもの自らの体験を通しての観察調査が、意味を持つのです。これが基本です。料理人が自ら畑や市場に行って料理の素材を選ぶように、人任せにすることはできないものです。私は学生にどのようなデザインも「原寸」で一度体験することを、指導しています。寸法を決めることは、デザインの第一歩です。2005年頃に発売されたテレビチームのアートディレクターN氏のプラズマテレビ(KDE-P42/ 50HX1)は、Gマーク2003年金賞を獲りました。それまでにトリニトロンという最強のデバイスを武器にしてきたソニーTVのアイコンを、失ったあとのフラット薄型テレビのなかで、同社らしさを求めるファンのユーザーにとって待望の、ソニーらしいアイコンとなるデザインでした。このデザインのコンセプトは「フローティングデザイン」―浮遊する映像でした。インテリア空間にとって、物としての奥行きは必要ではなく、必要なのは映像ということで、空間に浮く映像の意味のデザインでした。インテリア空間という環境を観察し、描いた理想の姿をかたちにしたデザインの手本となる、事例です。一方、私がまだ放送局用業務用機器の厚木チームに在籍していた頃、本社御殿山のデザインのマネジメントW氏が一度御殿山本社の同社で最も有名なアートディレクター、T氏にプロ用のビデオカメラのデザインを依頼しました。実は、厚木チームのカメラのデザイナーは担当した際には必ずプロのカメラマンの現場に同行し使い方を自身の目で観察し、カメラマンの意見を聞きながら情報を収集していた。取材の現場ですから、結構ハードな同行でありますが、必須の行動です。しばらくして、御殿山本社からのデザインが上がってきました。私たちは、デザインセンターの誰もが尊敬するアートディレクターT氏のデザインを、凄く楽しみにしていました。アートディレクターには、デザイン審議を受けるためにモックアップを持って厚木デザインチームにおいでいただきました。トップマネジメントも期待する新しいプロ用のカメラの原形が見られるのでしょうか。結果ですが、披露されたそのデザインは、コンスーマーのカメラのように構えやすい、重心のバランスを考え重いバッテリーの位置を後方から思い切って体の中心に移動させた特徴的なかたちでした。長年プロ用のカメラをデザインしたノウハウをもつ厚木のデザイナーたちからは根本的に現場での使い方、プロのカメラマンは様々なアングルに構える事が求められるのでバッテリの位置を変えずにフラットなデザインでなければならないというようにコメントし、提案アイデアを根本的に否定することになりました。従って、そのデザインはプロ用の新しいカメラの原形となりませんでした。ここで学んだことは、どのような優れたデザイナーであっても「観察・調査」使用される環境を理解しなければデザインが成立しないという事でした。